「人の移動」にみる新型コロナ情勢

 昨今の新型コロナ情勢に対応して「人の移動」に関するデータが様々なところで出てきています。Google からも Yahoo からも Apple からも、このご時世だからと位置情報を集計したデータが公開されてる状況です。社会全体に徐々に警戒が広がり、外出自粛要請(3/28 の週末〜)や緊急事態宣言(4/7〜)が出される中で、現状の施策が足りてるとか足りてないとか言われてるけども、実際どうなのか気になったので、各種データを整理してみました。

 なお、参考までに:人口あたりの新型コロナウイルス死者数の推移【国別】

「緊急事態宣言」

 いろいろ見る前提として、今回の「緊急事態宣言」の中身って実際どういうものなのか理解しておきたいと思いました。内閣官房の下記サイトに、緊急事態宣言の概要や今回の基本的対処方針、法的根拠となっている新型インフルエンザ等特措法が整理されています。

 

 緊急事態宣言の概要を見ると、期間(4/7〜5/6)や区域(7都府県)は散々言われてる通り。「緊急事態」の理由としては、①肺炎発生リスクの高さ、②経路不明な感染の増加、③医療体制ひっ迫が挙げられています(②と③はまとめて書かれてるけど)。

 で、緊急事態措置の内容としては、①不要不急の外出自粛や遊技場や遊興施設等の使用制限の要請、②病院等の医療機関が不足した場合の臨時の医療施設の開設 等、とあります(こっちではもう少し柔らかい言葉で書いてある)。①の「要請」には罰則がないので、「欧米におけるロックダウンのように強制的に罰則を伴う都市の閉鎖は生じない」ということになるのだと、そういう話。

 「成果」も上がってきているらしくて、緊急事態宣言が出た 4/7 と比較して、東京の人の流れは着実に減っているらしい(下図)。

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出所)内閣官房 新型コロナ対策ページ内「東京の主要駅における人の流れの推移

 

世界と比較して今、日本の「人の移動」は?

 本題。先ほど「欧米におけるロックダウン」という話があったけども、じゃあその欧米とかと比べて、日本の「人の移動」ってどんなもん?というのが第一関心事です。

 Google が日本含む 131 ヶ国を対象に示している「COVID-19 Community Mobility Report」だと、わりと細かく用途を見れました。Google Maps などのアプリで得たデータを集計したものを踏まえて、各地域の行動の傾向が時系列で示されています。具体的には、基準値(baseline: 今年 1/3 〜 2/6 の中央値)に対する割合の増減幅の推移が示されている形。現在出てる最新版では、どこの国も 4/5 までの値の推移が出ていますね。日本語版の情報もあり

まず日本

 参照したレポートの PDF はこれ。4/5 までの値の推移なので、「自粛要請が出始めた後、緊急事態宣言が出るより前」ですね。

 全国だと下記に示すような感じ。「普段(=基準値 baseline)」に対する割合で見たときに、緊急事態宣言が出始める直前がこういう雰囲気だったということ。食料品・薬局 (Grocery & pharmacy) や公園 (Parks) あたりはいまいち減ってない*1一方で、公共交通 (Transit station) や娯楽関連施設 (Retail & recreation) なんかは結構減ってる。職場 (Workplaces) がじりじり下がってる一方、住宅 (Residential) がじわじわ上がってる。

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 他に、日本だと都道府県単位のデータも入ってます。とりあえず東京。トレンドは全国と大きく変わらず、程度が大きい感じがする。娯楽関連施設が 5 割減、公共交通利用が 6 割減、職場行く人が 3 割減という雰囲気ですね。食料品・薬局が 3 連休あたりにちょっと上がってるのは買いだめ需要?

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欧米?

 じゃあ欧米諸国どうなの?というのが1点。まず、今大変そうなアメリカニューヨーク州見てみます。ニューヨーク州の外出制限が始まったのが 3/22 夜からだそうで、確かに娯楽関連施設や公共交通、食料品・薬品あたりはその辺りから下げ止まってる。
 とはいえ、娯楽関連施設が 6 割減、公共交通は 7 割減、職場は 5 割減といった感じなので、東京の 4/5 時点と比較すると、実はそこまで顕著な差が開いているわけでもない感じ。NY は「制限して」この数字、東京は「自粛要請の時点で」あの数字、と思うと、日本人の自粛根性みたいに言われるのはわかる(それで秩序が保たれてるなら、別に悪いことではない)。

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 米は見たので欧も見る。イギリスもフランスもドイツもイタリアもスペインもロックダウンやってるわけですが、雰囲気としては英・独と仏・伊・西の 2 タイプに分かれそう。具体的には、公園 (Parks) の状況がはっきり違う(=公園での散歩程度の軽微な外出は、英独では許容されてる一方、仏独西では許容されていない様子:各国における外出制限の具体的な内容は、まだそれぞれ見ていない)。後者のほうがより厳しい外出制限が敷かれている模様(なお、人口あたりの死者数は英独<仏伊西であるらしい)。

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イギリスグレーター・ロンドン

 

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イタリアラツィオ州(ローマがある州)

 

近隣諸国は?

 封じ込めがわりとうまくいっているらしい台湾。2月後半以降ずっと安定してますね。。。全体的に下げ幅が小さいのは、初動が早かったらしいので Baseline(= 1/3〜2/6 の中央値)がそもそも低いのではと思っています(わかりませんが)。でも、殊更に強く外出を制限しているわけではなさそうな感じがします。

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 これまたご近所の韓国。こちらは外出自粛が薄れつつあるという噂があったけども、本当に公園の伸びがすごくてびっくりしてしまった。他の用途もじわじわ上がってきてる気がする。ただ、死者数や感染者数の伸びは鈍化傾向にあるらしく、どうなんだろうという感じ。

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比較

 もう少しふわっと全体像見て、それぞれの立ち位置を捉えてみたいと思います。Apple が今日出していた Mobility Trends Reports に車・徒歩・公共交通それぞれの移動量推移が出ていたものから、公共交通の移動量を国別・都市別で図示してみました*2(なお、韓国は公共交通の移動量が入ってなかったので割愛、、、)。

 赤が日本、青系が仏伊西、緑系が英独、紫がアメリカ、オレンジが台湾です(都市別も、色は適宜対応してます)。日本は、全国にしろ東京にしろ 3 連休(3/19 らへん)でふわっと浮いてるのだけど、その後は週末(谷になってます)を迎えるたびにガンガン下がっている様子が見て取れます。特に東京だけ見てみると、台北と同等な移動量の減らし方をしてそうな感じ*3。欧米の中だとドイツが少し移動量多めで浮いていて他はどこも 1 月比 2 割以下というところ。

 「8 割減」が求められているという話がありますが、移動量だけを素直に見ると、欧米主要都市がまさにその水準であることがわかります。日本も、特に東京は減らしているんだけど、それでもまだ平時の 5 割くらいにとどまっている感じ。

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東京の中でどう変化してるのか

 東京の中での変化の様子も気になっていまして。Yahoo が東京 23 区を対象に区ごとに区外からの来訪者数と居住者の人数を推計した日別遷移を出していたので、こちらも見ています。

 といっても、居住者数はそうそう日によって変わるものではないので、区外からの来訪者数の遷移を追っています。まず、4 月第 1 週土日、第 2 週平日について、それぞれ前年比の割合がどう分布しているか図示しました*4。平日<土曜<日曜の順に、減少割合が大きくなっています。また、都心に近くなるほど、区外からの来訪者の減少割合が大きくなっている構図が見えます。

 この状況、要因自体はおそらくシンプルで、都心近くまでわざわざ行く用事ほど「外出自粛」されやすかったという話なんだと思います。土日は外出自粛要請が出ていた(緊急事態宣言よりは前だけど)し、平日はこの週の前半に緊急事態宣言が出ているので。休日に不要不急の外出が自粛されそうなのは想像つきやすいですが、平日の減り方も同じ雰囲気で効いてきているのは仕事の違い(都心に行くほどオフィスワーカーが多くて在宅勤務にしやすかったとか?)ですかね。日常での買い物みたいな用事はやっぱり残り続けるので、郊外の方は割合としてあんまり減らない、的な雰囲気。なので、「郊外で移動が減ってないから減らすべき!!」みたいな主張をするのはまた違う感じがする。とはいえ、こうはっきり構造が目に見えると(面白がっていい話でもないと思いますが)面白かった。

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 ↑を踏まえて、都心寄りで推移が微妙に違う 3 区(千代田・渋谷・新宿)*5と、郊外部 4 区(練馬・世田谷・江戸川・足立)の推移を平日・日曜について見てみました。同時に、「東京 23 区への東京 23 区外からの来訪者数」も点線で示しています。

 平日は、3 月末まではどの区もほぼ 9 割近かったです(なので省略しました)。3 月から在宅勤務していた会社は正直マイノリティなんだろうと思います。4 月に差し掛かると減り始めて、緊急事態宣言にあわせてさらにガクッと減りました。郊外部ほど減りが悪いのは先述の通り。

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 対して、日曜は 2 月末時点から減り始めていましたが、3/8 を底に、3/20-22 の 3 連休にかけて揺り戻しが起こりました。ですが、その次の週は、外出自粛要請に合わせて減ってます、都心部ほど減りがでかい。3/29 → 4/5 で見ると、いずれも外出自粛要請が出た週末ということで、微増・微減いずれも見受けられますが、4/12 になると緊急事態宣言後で減っている感じ。都心部では 5 割切ってきてるのでまずまず、23 区に外から来る人も 6 割切ってますね。郊外じゃそこまで減ってないんだなと。

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 あと、話は逸れます(+自分の分析でないものを引用させていただいて恐縮です)が、Twitter で「感染者率と電車通勤率はほぼ無相関」「一方、感染者率と繁華街滞在率は強い相関がみられる」という分析を見かけて、結構衝撃でした。満員電車で感染拡大しそうな気がしますが実際はそうでもなく、「夜の街」で感染が広がっていそう、と推測できるようなデータですね、、、。 

 

 

さいごに

 ここまでわーっといろいろ見てきて、実際の人の移動はこれだけ減ってるんやなと数字でわかると状況がひとつ掴めるような気がしました。「8 割減」と言われてもピンと来なかったけども、世界と比べてどうなのか・東京の中で見たときにどうなってるのかが見えると、少し実感を持てるような気がしています。

 いろいろな情報が氾濫する中で、情報疲れしてきている側面があることは事実です。少なくとも、僕自身は日々(ポジティブとはいえない)情報が流れてくることに疲労感を覚えつつあります。その中で、各国の死者数や感染者数の推移であるとか、「減ってる気がするけどどのぐらい?」と思っている人の移動の状況であるとか、シンプルな数字で押さえられるものを数字で押さえることで、少し冷静になって現状を見つめられるように思っています。

 今日も、現状のような外出自粛等を 2022 年まで続ける必要がありそうとの予測が示されていて、長期戦の構えが必要なんだなと改めて思いました。日本は、ここまで見てきたように、世界と比較すると「外出している」国だと思いますが、その中でも死者数は現状相当抑えられている状況なのだと思います。今後も、できればあまり無理をせずに(でも必要な制約はされつつ)、闘っていけるとよいのではと思った次第です。

 まずは自分ができることとして自分自身と身近な人の身を守るための行動を取りつつ、できる限り多くの人が生きて、願わくは健康で、終息を迎えられることを祈っています。 

*1:花見の時期に Parks が上がってますね……

*2:なお、1/13 の 1 日だけの値が Baseline にされていたので、勝手に 1/13 - 1/31 の平均値をとって補正しております。日による振れ幅が結構ありそうなので、1 日だけの値を基に見ちゃうのはたぶんよくない

*3:台湾は 1 月時点でガッツリ減らしてた可能性はあるにしても。

*4:ちなみに、来訪者の季節変動もあるのでは?といろいろ考えたのですが、思ったほど差がないので、平時と比較しようとすると前年比で割合を見る方がたぶん適切ですが、先程までの Baseline のように 1 月の平均などと比較するのもそこまで大きな差はなさそうです

*5:念のため付記しておくと、千代田・中央・港の都心 3 区の推移は全部似たり寄ったりでした