「天気の子」観た(1 回目)
「天気の子」を観ました。様々な感情が湧いてきたので、整理してもう 1 度観に行こうと思いました。ネタバレ込みで感想を殴り書きしようと思います。未視聴であれば回れ右。
あと、お気持ち濃縮還元な日本語が無理な人も回れ右。基本自分のためのまとめなので、読みやすくはないし、論理的でもないです(後述しますが、僕はまだこの映画のこと何もわからんなと思っています)。
てことで以下一発書きの乱文、対戦よろしくお願いします。
- 0. 全体の印象
- 1. 魅入られた点: 主人公と大事な人、2 人を軸に世界が回っていると錯覚するような、感情表現と世界観演出
- 2. 引っかかった点: 詰め込みすぎてないか、結局この映画のストーリーの軸は、メッセージは何なのか。
- 3. それでも僕は「天気の子」が素敵な映画だと思う
0. 全体の印象
圧倒的な感情表現と世界観演出に持っていかれる、それだけで全て超越できるくらいには、間違いなく素敵な映画だったと感じます。
あとから書きますが、陽菜さんに心をやられています。運命的な出会いとその後があり、ラストシーンでの回収がある。関係性オタクにはたまらんですね。
「オタクくんの好きだった新海誠が帰ってきた!」みたいな前評判を踏まえつつ観に行ったんです。「美しく壮大な世界ですれ違う男女の物語」を通じて「人間の本質」なるものを描くことが新海誠監督作品の真骨頂といえるわけですが *1 、「君の名は。」では、「毒気」ともいえるような、新海誠らしい露骨な感情表現が薄まった印象があった。
その点、「天気の子」にはその「毒気」が戻ってきたと僕も思います。キモいほど露骨な感情表現が、僕は好きです。*2
ただ、その中で。物語にも世界観にも魅入られるけど、引っかかることが多くて引き込まれきれない、そんな後味が残りました。気持ちでは圧倒的に素敵だと思うが、頭の理解が追いつかない映画。置いてけぼりにされてる気分にもなる映画。そういう印象。
そのへんの、魅入られたとこ、引っかかったとこ、それぞれザーッと書いていこうと思います(未だに全く頭の理解は追いついてないので、雑駁に書き殴ることをお許しください:整理しようと書いたけど思ったより整理にならなかった)。
1. 魅入られた点: 主人公と大事な人、2 人を軸に世界が回っていると錯覚するような、感情表現と世界観演出
1-1. 僕はどうにもならんオタクくんなので陽菜さんが大好きです
陽菜さんが大好きなのか、帆高を通じて見る運命的な出会いとかに心を動かされているのか、多分両方なんだと思います。
陽菜さんは 15 にしては、いやなんなら詐称してた 18 歳だったにしたって、明らかに大人びすぎてるんですよね。お父さんはいないっぽい中でも、優しい子に育ったように見えるのは弟がいるからですかね。利他的すぎるとこはある、そこが危なげながら彼女の魅力だし、帆高みたいな(僕もです)拗らせ系男子には刺さる部分がありましょう。
その結果として、彼女はハンバーガーをこっそり帆高に渡したり(頼る先なく東京出てきた帆高にとっちゃマジで運命的な出会いだ)、あの子を守ろうとか考えて暴走して銃ぶっ放すクソガキ(帆高くんです)を見放さなかったりしてしまう。その優しさはマジで罪ですよ〜〜〜〜ほんとに。
無償の愛って言うのも少し違うんでしょうね。陽菜さんは優しさを与えすぎてしまう人なんでしょう。家庭環境、特に直前にお母さんを喪った中で、孤独感は計り知れないでしょうし、生活していかなきゃいけないことへの危機感も凄いはず。
弟なり帆高なり、他者に優しくすることで、自分の存在価値を見出そうとする。自信がなくて心の余裕がない人には、ありがちな心の動き。心に余裕があるから優しいのではなくて、他者に優しくすること以外に彼女が自分を保って生き延びていく方法はきっとなかったんでしょう。*3
1-2. 的確な「拗らせヘタレ男子」描写と、オタクくん視点での共感
新海誠作品に出てくる主人公男子には、基本的にはロクなやつがいないと思います(唐突)。*4
その点、帆高は完璧な「拗らせヘタレ男子」です。その証拠に、オタクくんたる僕は彼のムーヴに伴う気持ちが手に取るようにわかる。そんなことしなきゃいいのにやらかしたり、行くべきとこで行けなかったり。拗らせヘタレ野郎なんてそんなもんだよな、わかるよ。
現実世界でここまでヘタレだと、何も起こらなかったりどこかで愛想尽かされたりするもんですが、その点フィクションはいいですね。1-1 で書いたけど、逆風しか吹いてないように思えるのに、まーなぜか気持ちは離れていかなかったりするもんな。
でもまあ、(これは自分への言い訳を多分に含みますが)「人間の本質」なんてその程度なのかもしれませんね。全員がそこまで強く生きてるわけじゃない、けどそこに大事な人への想いの強さだけはあり、すれ違いもまた運命だけど、ときどき報われたりもする。
1-3. 風景描写を軸にした世界観演出は至高
日常を知ってる空間 *5 に幻想的な世界観が挿し込まれる、世界観の演出。純粋に、めちゃめちゃ綺麗です。
個人的には、① 代々木会館に落ちる虹、② 代々木会館屋上に開けた青空と置かれた祠、③ 止まない雨で水没する東京の遠景、の描写が好きです。「現実の東京に挿し込まれた非現実」という、まったくの幻想ではない風景に心を惹かれました。
もちろん、「世界観演出」は絵だけの話ではない。音楽も含めて演出だと思います。
その点、(ここは個人の意見にすぎませんが)深い青色の空を背にして流れる『グランドエスケープ』が 1 番好きです。
空飛ぶ羽根と引き換えに つなぎ合う手を選んだ僕ら
それでも空に魅せられて 夢を重ねるのは罪か?
新海誠作品には半ば前提のように「美しく壮大な世界」の演出があり、だからこそ僕らは安心して、露骨なまでの感情表現に身を委ねることができる。
これ以上何がどうと僕が言うのは、いよいよ野暮でしかないでしょう。安心できるほど美しく、現実よりはるかに幻想的な、東京(+天空の世界)がそこにはあります。
1-4. すべての先にあるラストシーンのことを僕は確かに尊いと思ったんだ
いきなり、節のタイトルから少し離れたことを書きますが、彼らの世界を、自然による破壊のような大いなる力でなく、運命によるすれ違いでもなく、身近な人間に引き裂かれるでもなく、警察という公権力が抑えにかかるのは、2 人を軸に回る世界というのは錯覚にすぎず、破壊されうるものだよねと、実感させられるには十分だったように思います。だから、今回は警察に引き裂かれてもう出会えない形で、やっぱりすれ違って、でもそこがエモいよねとなってこの映画終わるのかなと思っていました。
でも結局、帆高は、無謀でしかないチェイスの末に、一旦はこの世界から消えた陽菜さんの存在を取り戻します。結構驚きました、そうなるとは思ってなかったので。ハッピーな意味で裏切られたという気持ち。
そして、一旦は保護観察処分という形で引き離されるけども、ラストシーンで帆高は陽菜さんと再び出会います。あの陽菜さんの笑顔本当にいいよなあ????
すぐ会いに行けないあたり圧倒的にヘタレ主人公でほんま最高。田端の坂道で、いつか過ごした街で、また君に会えて本当によかった。恐らくは陽菜さんのいる日々を取り返していくのだろうと、その日々を具体的に描くことはしませんが、明示してるようなもんです。晴れ女っていいですね。
2. 引っかかった点: 詰め込みすぎてないか、結局この映画のストーリーの軸は、メッセージは何なのか。
2-1. メッセージになりうる要素が多すぎませんか、各要素を「消費」してませんか
帆高が陽菜さんを焚きつける形で、彼らは「晴れ女ビジネス」をします。つかの間の晴れ間、その裏での土砂降りと魚の形をした雨。なので、わりと早い段階で、自然に背く力をエゴで使うことがメッセージの軸にくるのかなと思ったわけです。よくある話。あまりに簡単に読み取れるメッセージだから、あくまでこれを出発点にして、その上で何かを語るのかなという気がしたんですよ。
でも物語全体を改めて振り返ってみると、それ以上に発展させたことは(たぶん)何も言ってない。ような気がする。確かに、力を使うことと引き換えに、陽菜さんは透明になっていって、一度は消えてしまう、それは大きい事件なわけだけど、東京の雨がやまないことと引き換えに彼女は現世に戻ってくるんですよね。彼らは取り返しのつかない代償を払ったわけではないんです。
あと、貧困の描写の話。ネットでも話題でしたが、細やかなところが丁寧だと思います。Yahoo! 知恵袋頼りの家出少年、ポテチとチキンラーメン、年齢偽ったマックのバイト、あばら家住まい、児相送致、あたりの描写はこころに響きます。単に金銭的に貧しいだけじゃなく、その格差が情報格差にも繋がることとか、リアルな貧困の様子とか(陽菜さん凪くんは、バイトとか学校とか、外面だけなら普通に見えるけど、生活の内実はだいぶヤバい)が伺えるわけです。凪くんだけが妙に綺麗な環境で生きてるのは、陽菜さんが学校行かずにバイトしてるからってだけじゃ説明つかない気がしますが。
関連して、地方格差みたいな話。神津島から無謀に出てきた帆高が東京での生活に悩む場面を見たとき、そういう格差への言及もあるのかなと思いました。ただ結局、家出当時の彼の神津島での暮らしに関する描写は、一切なかったと思います。彼が飛び出すきっかけは何だったのか全くわからない。彼を生んだ背後には、島の暮らしに対する閉塞感や東京に対する根拠のない羨望とかがあったと思うけど、その内実は一切明かされないまま物語は進みます。
「メッセージになりうる要素が多すぎませんか」と書きました。一言で言うと、気が散るんですよ。重要なメッセージになりそうな描写があちこちに散りばめられてるのに、それらは全然説明されなかったり、ストーリー上重要じゃなかったりする。
きっとそれぞれ意図を持って描かれてるのだと思います、確かに重要な要素だと僕も思う。だからこそ、そういう重要な要素を詰め込みすぎなんじゃないか、消化しきれてない要素が多すぎないかという気がしました。
2-2. その風景を、シーンを、書きたいがために物語が展開されていませんか
大雨の池袋を歩いていて補導されそうになったとき、陽菜さんが爆発起こして逃げ出した場面があったじゃないですか。陽菜さんが「晴れ女」以外の神通力を使ったのはあの場面限りですよね(ほんとに?)。爆発が、場面展開のための辻褄合わせに思えちゃったんですよ。この、池袋での爆発の画を描くためだけに、あの能力設定があったんじゃないかと思ってしまったわけです。*6
それ以外にも、割とインスタントに、わけわからん現象が起こってた気がします。特に前振りも補足もない中でいきなり場面転換していった印象。ちょっと悪い言い方をすれば、誤魔化されてる気分が拭えなかった。綺麗だよねエモいよねという勢いで押し切られてるような。ただ、この辺りは具体的に例示して説明できるほど整理ついてないです。僕の勘違いにすぎないのかもしれません。
2-3.「銃」の存在に最後まで違和感を拭えなかった
違和感があった点で具体的なものを敢えて挙げると、「銃」の存在を軸に物語が展開されていくこと。結構早い段階で銃が出てきて、帆高わりと軽率に引き金引くし、大人にもガンガン銃口向ける。で、銃刀法違反で追われる家出少年。
「銃」って、少なくとも拗らせた少年に扱わせるには、あるいはその暴走を周囲の大人がコントロールするには、強すぎる武器だと僕は思います。銃が出てくることで、日常寄りの楽しい暮らしを描く場面でも、あるいは幻想的な世界観の中でも、ソワソワ感が拭えない。僕が「銃」に怯えすぎなのかもしれないですが、帆高が無邪気に使いすぎることもあって、どんな場面にも急に現実的な脅威が割って入ってくる・忘れられなくてソワソワする、そこは結構見ていてしんどかったです。
銃なしでこの物語を回すことって、果たしてできんかったんやろか。各々の場面展開は、銃じゃなきゃいけなかったのかな(銃持ち出すのも含めてなんかのメッセージという可能性はあると思います。ただそうだとすると、2-1. に関連しますが、メッセージが多すぎる)。
3. それでも僕は「天気の子」が素敵な映画だと思う
最初に言いました、僕は新海誠作品特有のキモいほど露骨な感情表現が好きで、「天気の子」はその点遺憾なく発揮された作品だと思います。
陽菜さんと帆高の出会い方は完璧すぎるほど出来すぎていて、でもチョロいオタクくんこと僕は彼に共感するしかない、僕があいつなら陽菜さんをめちゃめちゃ大好きになるのはしょうがないなと、やはり思います。
そして、完全に悲恋で終わってしまわない、いつかきっとまた会えるという希望のラストシーンも、ぐっと掴んで離さないものがありました。
2人を軸にして回っている(ように思い込める)世界、大事な人を失ってまで救いたい世界なんてないだろというエゴつきの盲目的な強い愛の表現において、新海誠の右に出る者はないのだと、そして「天気の子」はその真骨頂であるように思えました。
そうやって、圧倒的に感情を衝き動かしまくる「天気の子」という映画は、いくつかの違和感があれども素敵だと、やっぱり僕は思います。
とはいえ、残った違和感のいくつかは、全く無視できるものではありませんでした。枝葉にとらわれて素直に観られなかった実感が残ります。
結局のところ、僕はこの映画のストーリーの全体像を未だに掴みかねてるんですよね。
具体的なエピソード同士の繋がりが現状全然わかってなくて、結局、ストーリーの中で何がどうキモだったのかよくわかんない。
だから、現時点での考察がどの程度真っ当か、言い訳抜きに自分でまったくわからないし、改めて見返さなきゃいけないと思っています。今ある記憶が消えないうちに改めて映画館に足を運ぼう、「天気の子」ってどんな映画だったのか正しくわかろう、と。そのときはじめて、僕はこの「天気の子」という映画を本当の意味で楽しんだと言えるんじゃないかと思います。
(おしまい)
*2:逆に言えば、この点を受け付けない人は少なからずいるだろうと思います(そういう意見もかなり聞く、この点がひっかかるのは、「絵が綺麗なだけだよね〜」的な薄っぺらいふざけた批判と違って、真っ当な意見だと思う、その価値観の違いは棄却できない)。ちょっとキワモノなくらいが新海誠作品らしいと思ってしまうのは、単に「流行ってしまうと寂しい」みたいな気持ちではないと思っています。
*3:「晴れ女」な能力を活かしてビジネスしようというときの反応を見るに、彼女が自分に自信があるようには思えない
*4:「君の名は。」の瀧くんは綺麗すぎる、お前は違う、そうじゃない。
*5:僕自身の話をすると、舞台となってた場所には概ね訪れたことがありました。JR 東京総合病院の病室は僕が東京で唯一入ったことがある「病室」なんですが(見舞いで行った)、そのまんますぎてビビった。
*6:それとも、陽菜さんが起こした爆発ではなくて、偶発的なものなんですかね。だとすると、ますます意図がわからない気がしますが……。